クマ取りで失明するリスクは?球後出血の症状と対策を医師が解説

SNSで「クマ取りで失明した」という投稿を目にし、不安を感じた方は少なくないでしょう。

クマ取りは比較的身近な美容医療として認識されがちですが、目の周囲は解剖学的に非常に繊細な部位であり、まれではあるものの重篤な合併症が起こりうることも事実です。

本記事ではクマ取りで失明のリスクは本当にあるのか、どのような状況で起こりうるのか、そして失明を防ぐためにできることを、医師の見解をもとに解説します。

正しく理解し、冷静に判断するための材料として読み進めてください。

クマ取りで失明するリスクは「極めてまれ」だがゼロではない

昨年、SNSで拡散された「クマ取りで失明した」という内容の投稿を見て、不安を感じた方は多いと思います。視覚障害は日常生活に大きな影響を及ぼすため、患者さまにとって非常に重い問題です。あってはならない医療事故が起きてしまった可能性があることについては、医療に携わる立場としても重く受け止める必要があります。

一方で、クマ取り手術は国内で非常に多く行われており、そのほとんどは重篤な合併症なく終了しています。

失明は極めてまれな合併症ですが、医学的にも「絶対起こらない」と断言できるものではなく、非常に低い確率で重篤な合併症として失明するリスクがあるのも事実です。

今回SNSで大きく拡散された背景には、日本国内でクマ取りによる失明が表に出てきた事例が今までにほとんどなかったこと、視覚障害という結果が強い心理的インパクトを与えたことが関係しています。

また「どこの病院なのか」「自分も同じ目に遭うのではないか」といった疑問が次々に生じるのも自然な反応です。

しかし、個人名や医療機関を特定しようとする動きや断片的な情報から原因を断定しようとすることは、冷静な判断を妨げる要因にもなります。

まずは、失明がどのような流れで起こりうるのかを正しく知ることが大切です。

クマ取りで失明につながる原因

ここでは、クマ取りで重篤な視力障害が起こりうる代表的な原因について、治療法ごとに整理して解説します。

注入系治療の場合

目の下のくぼみに対してヒアルロン酸などの注入治療を行う場合、まれに血管閉塞(血流が滞ること)による失明リスクが指摘されています。

目の周囲には動脈とつながる血管が存在しており、これらは網膜や視神経の血流を担っています。

万が一、注入した薬剤が血管内に入り込み、血流を遮断してしまうと、短時間で視力障害が生じる可能性があります。

また注入時に血管を損傷する可能性もあります。

「鈍針を使用しているから安全」だと謳われることもありますが、挿入方向や圧のかけ方によっては必ずしも安全とは言い切れないのが現実です。

比較的気軽に受けられる注入治療であっても、医師の解剖学的な理解と慎重な操作が不可欠です。

経結膜脱脂術やハムラ法の場合

経結膜脱脂術やハムラ法は、眼窩脂肪(がんかしぼう:眼球の周りの脂肪)や皮膚のたるみに直接アプローチする外科的治療です。

これらの治療で問題となるのが、眼窩内(眼球の周辺組織が治まっている骨のくぼみの中)で起こる出血です。

一般的に、経結膜脱脂術よりもハムラ法のほうが操作範囲が広いため、血液が眼窩内に滞留しやすい点が問題となることがあります。

眼窩内出血の中でも、失明や永続的な視力障害につながりうる重篤な合併症が「球後出血(きゅうごしゅっけつ)」です。

ほかにも止血の際に使用する電気メスなどによる熱損傷が眼球に影響を及ぼす可能性も、極めてまれではありますが報告されています。

球後出血とは?出血の原因はなに?

ここでは球後出血とはどのような状態なのか、そしてなぜ起こりうるのかを、目の構造と手術操作の観点から解説します。

球後出血について

手術中や手術後に、眼球の後ろ側でまれに出血が起こることがあり、これを球後出血と呼びます。

目の奥は骨に囲まれた非常に狭い空間です。

いわば“逃げ場のない構造”になっており、その中で出血が起こると、溜まった血液によって眼球や視神経が強く圧迫されます。

この圧迫が続くと、視力が低下するなど、状況によっては失明に至る可能性もあります。

美容目的のまぶた手術(眼瞼形成)に関連した眼窩内出血(球後出血を含む)は、海外の論文による確率では約0.055%、およそ2,000件に1件とされています。

また永続的な視力障害に至った例は約0.0045%(約22,000人に1人)とされており、頻度は極めて低いものの、重篤な合併症として医学的に認識されています。

出血の原因

目の奥に存在する脂肪は、それぞれが独立しているわけではなく、薄い膜(septa:隔膜)によって網目状につながった構造をしています。

そのため手術中に脂肪を強く引っ張ったり無理に奥の脂肪まで切除しようとしたりすると、その力が目の奥まで伝わり、深部にある血管を損傷することがあります。

特に問題となるのが奥に位置する動脈からの出血で、深い場所で起こるため止血が難しく、出血に気づくのが遅れる可能性があります。

また脂肪自体に血管が絡んでいるため、その部位の止血が十分でない場合にも出血リスクは高まります。

電気メスなどで丁寧に止血を行っていたとしても、術後にいきみや嘔吐、過度な圧迫が加わることで、止血した部分のかさぶたが外れ、処置後に再び出血するケースもあります。

どんな場合に失明リスクが高まるのか

ここでは、失明につながる可能性が高まる代表的な場面を「手術中・直後」「術後に現れるサイン」「実際に出血が起こった場合」の3つの視点から整理して解説します。

手術中・直後に起こりうる要因

手術中・直後に失明リスクが高まる要因としては、以下の点が挙げられます。

・出血のコントロールが不十分な状態
・血管損傷による出血
・目の奥で起こる損傷に気づくのが遅れること

特に注意が必要なのが、出血のコントロールが十分に行われていないケースです。

眼窩内は非常に狭い空間であるため少量の出血でも圧が急激に上昇しやすく、眼球や視神経に強い影響を与える可能性があります。

また、手術操作によって血管が損傷された場合も注意が必要です。

なかでも問題となるのは、目の奥深くにある血管が傷ついたケースです。

表層であれば出血に気づきやすい一方、奥で起こった損傷は外から分かりにくく、異常の発見が遅れてしまうことがあります。

術後に注意すべきサイン

球後出血は、術後の経過の中で現れる症状から早期に察知できる場合があるため、術後の変化を注意深く観察することが重要です。

まず注意したいのが、目からの出血が止まらない場合です。

多少の「血の涙」が出る程度であれば問題にならないこともありますが、5分おきにティッシュを替えなければならないほど出血が続く場合は、早急に医療機関へ連絡する必要があります。

以下のような症状が現れたら早急に医療機関を受診しましょう。

特に片側だけが急激に腫れてくるケースでは球後出血の可能性を考慮する必要があります。

・急激な痛みが出てきた
・目が開けられないほど強く腫れてくる
・赤黒く強い内出血が広がっている
・視界がぼやける、見えにくくなる
・眼球が前に飛び出すような感覚がある
・目が動かしにくいなど、眼球運動の制限を感じる
・目が固く硬くなったように感じる急激な眼圧上昇
・光に対する瞳孔の反応が鈍くなる

球後出血は、基本的に手術中から翌日にかけて発生することが多く、特に術後0〜3時間以内に起こるケースが多いとされています。

24時間を過ぎるとリスクは有意に低下しますが、数日後に発症する例も報告されています。

クマ取り手術に限った話ではありませんが、1週間後に球後出血が起こったケースもあるため、少なくとも術後10日間程度は注意して経過を観察してください。

一方で白目が赤くなる結膜下出血は見た目のインパクトは強いものの、一般的には失明につながりにくいとされています。

ただし不安がある場合は自己判断せず、必ずクリニックに相談することが前提です。

もし出血してしまったらどうなる?

球後出血が起こると、出血によって眼圧(目の中の圧力)が異常に上昇しやすくなります。

眼圧が上がることで、目の中では次のような悪循環が起こります。

・血液の流れが妨げられる
・視神経が圧迫される
・見えにくさや視力低下が生じる

この状態が続くと、視神経や網膜へのダメージが進行し、失明につながる可能性が高まります。

ただし、球後出血が起きた場合でも、緊急時には「視力を守るための処置」が存在します。

危険な状態と判断された場合、目尻を切開して眼窩内の圧を逃がす緊急処置を行うことで、視力が回復する可能性があります。

この処置で最も重要なのは「どれだけ早く異常に気づき、対応できるか」という点です。

一般的には、出血が起きてから90分以内に処置できることが理想とされています。

ただし、対応が遅れた場合でも回復した例は報告されており「もう間に合わないかもしれない」と自己判断して受診をためらうべきではありません。

一時的に視力が大きく低下した場合でも、その後数ヶ月かけて視力が回復したケースもあります。

強い痛みや急激な腫れ、見え方の変化を感じた場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。

医師選び以外に自身でできる失明を防ぐための対策

ここでは医師選びとは別に、自身で意識しておきたいポイントを術前・手術直後・術後の自己観察」という段階ごとに整理して解説します。

術前に確認しておきたいポイント

まず重要なのは、カウンセリング時に「失明を含む重篤な合併症」についてきちんと説明があるかどうかです。

球後出血などのリスクについて触れず、「ほぼ安全」「心配ありません」といった説明だけで終わる場合は注意が必要です。

あわせて確認したいのが、異常が起きた場合の対応体制です。

術後に強い痛みや視界の異常が出た場合、すぐに連絡が取れるのか、夜間や休日の対応はどうなっているのかを事前に確認しておくことで、万が一の際に迷わず行動できます。

特に重要なのは次の点です。

・術後に異常が出た場合の連絡先が明確か
・夜間・休日の対応方法が説明されているか
・緊急時に他院(救急・眼科)と連携できる体制があるか

これらが曖昧なまま手術日を迎えることは、リスク管理の観点から望ましくありません。

手術を受ける前にできること

術前の体調や既往歴の申告、特に、出血しやすさに関係する情報は失明リスクを下げるうえで必ず医師に伝える必要があります。

血液をサラサラにする薬(アスピリン、ワーファリンなど)を服用している場合は、自己判断で中止せず、必ず事前に申告してください。

また、サプリメントであっても、DHA・EPA、イチョウ葉エキスなどは出血傾向に影響することがあるため、服用している場合は伝えておきましょう。

そのほかにも、以下の点も事前に医師に共有してください。

・血圧が高い
・加齢などで血管がもろくなっている
・鼻血が出やすい、あざができやすい体質

また、手術当日は睡眠不足や二日酔いを避け、体調を整えた状態で臨むことも大切です。

可能であれば、術後数時間は院内で安静に過ごせるか、術後の経過観察や連絡が取りやすい時間帯に手術を受けられるかを確認しておくと、より安心材料になります。

手術直後から24時間以内に避けるべきこと

手術直後から24時間は、球後出血を含む重篤な合併症が起こりやすい時間帯であるため、以下のような行動を避けてください。

・強く目をこする
・うつ伏せで寝る(頭を高くして仰向けで寝るのが基本)
・激しい運動、サウナ、飲酒など血流を促進する行為
・嘔吐や強い圧迫(冷却時に強く押し当てることも含む)
・長時間のスマホ・PC作業による目の酷使

これらはすべて、眼窩内の圧を高めたり、止血が不十分な部分から再出血を起こす要因になり得ます。

術後の自己観察で大切なこと

術後は「多少腫れるもの」「痛みは仕方ない」と自己判断してしまいがちですが、腫れや痛みが時間とともに落ち着いているのか、それとも急激に悪化しているのかを冷静に観察しましょう。

施術を受けたクリニックと連絡が取れない場合や夜間であれば、救急受診をためらうべきではありません。

術後の異変に早く気づき、早く行動することが、万が一の事態から視力を守るための最も重要なポイントになります。

SNSで話題になったケースについて考えるときの注意点

SNSで拡散された「クマ取りで失明した」という投稿を目にすると、不安や恐怖を感じるのは自然なことです。

しかしこうした情報を受け取る際には、感覚だけで判断せず、情報の性質を冷静に見極める視点が欠かせません。

詳細が分からない情報を判断材料にしない

投稿がすでに削除されている場合や治療内容・経過・対応状況などが明らかにされていないケースでは、第三者が事実関係を検証することはできません。

当事者間で示談や話し合いが進んでいる可能性も含め、外部からは見えない事情がある場合も多く、断片的な情報だけで真偽を判断することは困難です。

憶測で特定したり、拡散しない

また「どこの病院なのか」「誰の施術なのか」といった点を憶測で特定し、拡散してしまう行為には注意が必要です。

意図せず名誉毀損や営業妨害にあたる可能性があり、実際に法的トラブルに発展するケースもあります。

不安だからこそ知りたくなる気持ちは理解できますが、情報の取り扱いには慎重さが求められます。

仮にご自身が医療トラブルの当事者となった場合であっても、SNSで特定の医療機関の安全性を断定的に発信することにはリスクが伴います。

医療行為に関する発信は公益性が認められる場合もありますが、発信内容によっては医師個人の名誉やプライバシー、医療機関の営業権との関係で名誉毀損などの問題が生じる可能性もあります。

トラブルに直面した場合は、感情的に発信する前に医療・法律の専門家に相談し、適切な対応を検討してください。

SNSなどの情報に対して事実確認と冷静な判断を優先する姿勢を保ちましょう。

リスクを正しく知って技術力のある医師に相談を

クマ取りで失明に至るリスクは極めてまれですが、医学的に「失明は絶対に起こらない」と言い切れるものではありません。

だからこそ、起こりうるリスクを正しく理解したうえで経験と技術力のある医師に相談する姿勢が重要になります。

一方でどれほど症例数が多く、経験豊富な医師であっても、球後出血のリスクを完全にゼロにすることはできません。

重要なのは、リスクを想定した説明があり、異変が起きた際に迅速に対応できる体制が整っているかという点です。

術後のフォローや緊急時の連絡体制が明確なクリニックであることは、万が一に備えるうえで大きな安心材料になります。

もし術後に、視力の低下、強い痛み、急激な腫れなどの危険サインを感じた場合は、まず施術を受けたクリニックへ速やかに連絡してください。

連絡が取れない場合や夜間である場合には、受診をためらわず救急医療機関を利用することが大切です。

可能であれば大学病院などの緊急外来を受診し、状況に応じて救急車の要請も検討してください。

受診時には、医師に対して「クマ取り手術を何日前に受けたか」「急に視力が落ちた、または見えにくくなった」「目に強い痛みがある」といった情報を具体的に伝えてください。

あわせて、球後出血の可能性があること、減圧の処置が必要かもしれないことを言葉にして伝えることで、対応がスムーズになる場合があります。

眼科医や救急医の中には経結膜脱脂術に詳しくない医師もいるため、術後であることを明確に共有することが、視力を守る行動につながります。

ページ監修者
田中医師
美容施術が初めての方にも「ここなら任せられる」と思っていただけるよう、事前のカウンセリングにしっかり時間をかけ、わかりやすく丁寧にご説明しています。不要なご提案は一切せず、患者さまのペースを大切にしています。

私自身、痛みにとても敏感なタイプです。そのため、まずは自分で施術を受け、不安や痛みをどうすれば少なくできるのかを常に研究してきました。

実際の施術では、痛みを感じやすい箇所ではお声がけをし、必要に応じて麻酔の調整を行い、腫れやダウンタイムをできる限り抑えられるよう配慮しています。あなたの不安に寄り添ったサポートをお約束します。